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不動産や株式などの名義変更があった場合(2)介護費用を捻出するため行われた不動産の贈与

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不動産や株式などの名義変更があった場合(2)介護費用を捻出するため行われた不動産の贈与

不動産や株式などの名義変更があった場合(1)で、財産の安易な名義変更は極力されないように、と申し上げました。もうひとつ、事例を紹介いたします。
たとえば、お年寄りの方が認知症を患い、さらに寝たきり状態になりますと、長期間の老人ホームの入居を余儀なくされ、介護費用も相当額に上ることがあるかもしれません。介護費用をまかなうとしても、定期的に入る年金や貯蓄ではまかないきれない場合、ひょっとすると自宅を売却せざるを得ないこともあるかもしれません。そして、自宅を売却するにしても、本人の意思確認すらできない状態とも限りません。成年後見制度を利用されればよいのですが、ご家族の方の中にはその手続きに煩わしさを感じる方もいるかもしれません。
ここに国税不服審判所平成20年11月5日裁決の事案があります。
夫とその妻は、4年近く介護付有料老人ホームに入居していました。夫は完全に寝たきり状態で医師から判断能力や意思伝達能力がないと診断されるほどの状態でした。妻とその長女は、長期間にわたる老人ホームの入居費や介護費用をまかなう為、夫の所有する土地建物を売却することを決意しました。が、不動産業者から意思能力(自分の行為の結果を判断できる精神能力)がない夫の名義による売却はできないが、不動産を妻名義に変更すれば売却できると聞きました。このようなとき、成年後見制度を利用して、夫の代理人である成年後見人が不動産の売却行為を代理するのが本来のやり方かもしれません。しかし、妻と長女は、不動産業者の助言を安易に鵜呑みにして、夫から妻への贈与を原因とする土地建物の名義変更登記をした上、土地建物の売却を行いました。売却代金は2,050万円でした。
税務署の指摘を受けたのか、その後妻は贈与税の申告をし、さらには土地建物を譲渡したことによる所得税の確定申告をしました。贈与税や不動産取得税、所得税や住民税、さらには健康保険税を納付しましたがその額は合計で1,400万円にも及びました。そうしますと、単純に妻の手元には650万円しか残らなかったことになります。
その後、妻は、夫が意思能力のなかったことによって、自身に対する贈与行為とその後の売却行為は無効であるから、贈与税の申告と譲渡に係る確定申告は間違いである、といって税金の還付を税務署に求めました。税務署はこれを認めなかったのです。この税務署の処分を不服として妻は国税不服審判所に申し立てました。審判所は、土地建物の贈与の登記は形式的なものに過ぎず、贈与行為はなかった、として妻の主張を認めました。しかし、審判所は、贈与税の還付の請求は請求期限を過ぎた不適法なものであるから認められない、として、所得税の還付の請求のみを認めました。ちなみに、贈与税の還付の請求について、争訟を追行した妻の代理人が違う主張をすれば、ひょっとして還付が認められたかもしれません。審判所もそのことを指摘しています。
なんともやるせない結末です。このような事例は、ひょっとすると氷山の一角かも知れません。
では、上記の事例で、贈与税の配偶者控除の適用ができたでしょうか?
贈与税の配偶者控除とは、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産(又は居住用不動産を取得するための金銭)の贈与が行われた場合、贈与税の基礎控除110万円とは別に最高2,000万円の特別控除額を贈与された居住用不動産の価額から差引くことができる特例です。この特例は、居住用不動産などの贈与が夫の死後における妻の生活保障の意図で行われることが少なくないという実情を考慮して設けられているものです。しかし、この特例の要件のひとつに、贈与を受けた不動産を引き続き居住の用に使用する見込みがある、というものがあります。従いまして、上記の事例では、夫の所有する土地建物を妻が売却する目的で贈与を受け、その後速やかに売却しておりますので、この特例の適用を受けることはできなかったと思います。
いずれにしましても、冒頭で安易な名義変更は極力されないように、と述べましたが、改めてそのことを実感させられる事例でした。

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