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社長の意向に従って会社が支出した架空の給料

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社長の意向に従って会社が支出した架空の給料

会社の社長が、本来自身が負担すべき費用を会社に肩代わりしてもらうことは、往々にしてありうることです。たとえば、社長が、自分の知人の生活費を会社に肩代わりさせようと、知人に勤務実態がないのにもかかわらず、会社から給料としてその知人に金銭を支給したとします。この給料が、税金上、会社の経費として認められるかどうかの問題があります。また社長や会社が刑事上の責任を問われるかもしれません。ですが、それはさて置き、この知人が受取った給料名目の金銭について、知人の方に対しどのような課税がされるのでしょうか。

本来、給料については、受給者である従業員に対し給与所得として所得税や住民税がかかります。ただし、給料とは雇用関係に基づく労働の対価でありますから、勤務実態がない者に支払った金銭は、税金上も給料(給与所得)とはいえません。法人からの単なる贈与となります。個人が、法人から贈与を受けた場合、一時所得又は雑所得として所得税や住民税がかかります。贈与といいますと、個人にかかる税金として贈与税が思い浮かびます。しかし、贈与税は個人から個人に対する利益の移転に対して課される税金です。一方法人から個人に対する利益の移転に関しては、贈与税は非課税とされています(相続税法第21条の3第1項第1号)。したがって、上記の事例のように社長の知人が会社から受取った金銭には、本来贈与税はかからないはずです。ですから、金銭を受取った知人からすれば、会社から、というよりも社長個人から利益を受けている、として贈与税が課税されるとするのは、かなり強引ではないのか、と思われるかもしれません。しかし、贈与税の課税が認められた事例があるのです(国税不服審判所平成18年12月22日裁決。この事例は国税庁が公表しているものではないので、公開された裁決文は黒ぬりが多く、事実関係が不明瞭です)。ただ、社長個人が本来負担すべきものを会社が負担したというのであれば、支払う会社側からみれば社長の知人に対する贈与というよりも、社長個人に対する金銭の支出と解せなくもなく、会社から社長、そして社長から知人へ金銭が渡ったと見ることができるのであれば、贈与税の課税もありうるのではないか、とも考えられます。

上記の事例は会社に関するものでした。が、個人で事業をされている方が、その事業に従事している同居している親族の方(生計を一にする親族の方)に対し、給料を支給していることも多いかと思います。個人事業主の方が、生計を一にする親族の方に対して支給する給料は、原則としてその個人事業主の方の事業所得などに係る所得税の確定申告において、必要経費に算入することはできません(所得税法第56条)。しかし、個人事業主の方が青色申告をしており、「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出している場合、その届出書に記載された金額の範囲内で、その親族がもっぱら事業に従事しており、かつ労務の対価として相当な額であれば、必要経費に算入することができます(所得税法第57条第1項及び第2項)。この場合、当然その給料を受取った親族の方に対しては、給与所得に係る所得税や住民税が課税されます。

ですが、その親族の方が実際には労務に従事していないにもかかわらず給料を支給していたり、給料の額が労務の度合いからして不相当である場合には、そのような給料は、個人事業主の方の必要経費に算入されません。そればかりか、その給料名目の金銭を受取った親族の方に対しては、その給料名目の金銭の贈与を受けたものとして贈与税が課税されます(個別通達「青色事業専従者が事業から給与の支給を受けた場合の贈与税の取扱いについて」)。

贈与税は、贈与契約(財産をあげる方があげます、といい、もらう方が、もらいますといって取交わす契約)がなくても、個人間で無償の利益の移転があったと認められれば課税されます。思わぬところで贈与税が課税され多額の税金の負担が生じる、贈与税は恐ろしい税目といえるかも知れません。

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