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低額譲渡

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低額譲渡

たとえば、親子間で土地や建物の不動産の売買が行われる場合、近親者間で行われるものですので、不動産業者を介さずに行われたりもするでしょうし、不動産の時価にあまり関心を払うことなく行われたりすることもあろうかと思います。ひょっとすると、贈与する目的で時価よりも相当に低い価格で売買が行われたりすることがあるかもしません。
相続税法では、著しく低い財産の価額の対価で財産の譲渡を受けた場合、その財産の対価と時価との差額の贈与を受けたものとして贈与税を課する、としています(相続税法第7条。しかし、その財産の譲渡が、扶養義務者間において、資力を喪失した譲り受け人の債務の弁済に充てられる目的でなされたときは除くとしていますが、以下省略します)。
では、親子間で不動産の売買を行う場合、この贈与税が課されないように相続税評価額に基づいて売買代金を決定すれば、贈与税の課税を受けることはないのか。以下この点を見ていきます。
贈与税の計算上、不動産の場合、通常国税庁が定める「財産評価基本通達」にしたがって、路線価や固定資産税評価額に基づいた評価方式(路線価評価・倍率評価)によって評価した価額が評価額(相続税評価額)とされます。相続税の路線価は、毎年土地の実勢相場(時価)の80%になるように設定されている、といわれています。これは、年間を通じてその年の相続税・贈与税の計算に適用されることから1年間の地価の変動にも耐えられるよう評価の安全性を考慮したもの、といわれています。
ですが、著しく低い対価で土地や家屋などが譲渡(低額譲渡)された場合には、贈与税の計算上適用されるそれらの財産の価額は、相続税評価額ではなく、時価とされています(平成元年3月29日付 個別通達「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」ご参照。もっとも、この通達では、「『著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合』…に当たるかどうかは、個々の取引について取引の事情、取引当事者間の関係等を総合勘案し、実質的に贈与を受けたと認められる金額があるかどうかにより判定するのであるから留意する。」ともいっています)。
この通達の規定が制定された当時は、いわゆるバブル経済の最盛期で、当時路線価は時価の70%の水準で設定されていましたが、1年の間に時価が急騰し路線価が時価の20%から30%の水準にまで乖離するという現象もあったようです。そのような中、土地を路線価に基づいて譲渡するという形式をとることで税金の負担を回避する事例が横行したため、これを放置すれば課税の公平の見地から弊害がある、という事情から、このような規定が制定された、といわれています。なお、この通達は、バブル経済が過ぎ去った現在でも廃止されていません。
ただ、平成15年当時、親が子に相続税評価額ベースで計算した価額(約8,902万円)で土地の譲渡を行った事案で、税務署が、相続税評価額ベースの価額は著しく低い価額にあたり、不動産鑑定士に依頼して計算した時価(約1億1411万円)との差額(約2,509万円)が贈与にあたるとしてした贈与税の課税処分が争われ、贈与税の課税処分を受けた方が勝訴した判決があります(東京地裁平成19年8月23日判決)。この事案における相続税評価額をベースとした譲渡価額の時価に占める割合は約78%でした。裁判所は、この差をみて、著しく低い価額とはいえない、としています。また、国税不服審判所も、別な事案において、上記通達の規定の趣旨は、「不動産の通常の取引価額(時価)と相続税評価額との開きに着目しての贈与税の負担回避行為に対して、税負担の公平を図るため、…対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る価額は、評価基本通達にかかわらず、通常の取引価額に相当する金額によって評価することとしたものであり、(この)通達の適用に当たっては、(この)通達が制定された当時における地価の動向及び路線価の時価に対する水準を考慮しなければならない。」といっており、現在においてもこの規定が存続し、それが全ての事案において適用されることについてやや問題がある、とする見解を示しています(国税不服審判所平成15年6月19日裁決)。
しかし、上記の東京地裁の事例があるとしても、相続税評価額を売買価額とする不動産の取引に関しては、時価との差額について贈与税が課せられない、とは必ずしもいえません。依然として、上記の通達の規定は存続しています。親子間の不動産の売買は、この点要注意といえます。

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