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遺産分割のやり直しの可否

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遺産分割のやり直しの可否

相続人の方々の様々なご事情により、遺産分割が終了した後やり直しをご検討されたい、ということもあろうかと思います。なかには、当初の話し合いにおいては、相続税の負担が一番軽くなるような方針の下遺産分割をしたけれども、実は税法その他の法令の適用に誤りがあって、むしろ相続税が納めすぎになっていることが相続税の申告書を提出した後に判明したため、再度遺産分割をやり直したい、というご事情もあるかもしれません。こうした理由から相続税の申告をした後に遺産分割をやり直して納めすぎた相続税の還付の手続きをしても、すぐに税務署が税金の還付に応じてくれるかといいますと、なかなか難しい面があります。なぜなら、税務署側からは、このような遺産分割のやり直しは税金の負担を免れる行為だ、と見えるからです。しかし、過去の税金裁判の中で、このようなケースについて訴えを起こし、相続税の還付を求めた相続人の方々の主張が認められた事例があります(東京地裁平成23年2月27日判決)。
この裁判の概要は、次の通りです。
お亡くなりになった方が有していた非上場の株式について、相続人の方々は、株式の評価額が低くなるような持ち株数となるよう遺産分割を行いたいという意向があり、税理士のアドバイスを受けた上で株式の遺産分割を行い相続税の申告をしました。しかし、後日その株式の分割方法が税理士のミスによって誤っていたことが判明し、相続人の方々は遺産分割を再度やり直して相続税の還付の手続きをとりました。ところが、税務署が相続税の還付に応じなかったため、相続人の方々が裁判所に訴えを起こしました。裁判所は、当初の遺産分割の効力に重大な影響があるほどの大きな勘違いが相続人の方々にあった、難しい言葉で言えば、当初の遺産分割は錯誤により無効であった、とし、納税者である相続人の方々の主張は認められる、と判断しました。
しかし、この事例以前に、税金の負担に関して重大な錯誤があったのだから税金の還付は認められるべきだ、といって税務署を相手に裁判を起こしても、そのような主張が認められた税金裁判の事例は皆無です。
民法上は、遺産分割のやり直し、すなわち当初の遺産分割を相続人間で合意解除をして新たな遺産分割を行うことは、原則として、当然には妨げられるものではない、と考えられているようです(最高裁平成2年9月27日判決)。しかし、税金上は、よほどの理由がない限り(たとえば、相続人の一部が協議に参加していない場合や相続人でない方が協議に参加している場合、など遺産分割が無効・取消しとなる事情がある場合)、遺産分割のやり直しに伴う相続税の還付は認められないばかりか、そのやり直しは、遺産分割とは次元の異なる相続人間における財産の分配(贈与や交換)とみて、贈与税や所得税が課される可能性があります。
相続税の申告期限は、原則お亡くなりになった日から10ヶ月以内です。相続税の納税を伴うご相続の場合、不用意な遺産分割のやり直しは、原則できないものと考えた上で慎重かつ迅速に遺産分割を行うことが求められそうです。

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