預貯金 相続開始直前の預貯金の引出
相続税の申告をお受けいたしますと、必ず出くわすのは、お亡くなりになった方の預貯金からのお亡くなりになる直前の現金の引出です。銀行では、新聞のおくやみ欄を毎日見て預貯金の取引のある方がお亡くなりになった事実を確認しており(確認の仕方は各銀行同じではないかもしれませんが…)、死亡を確認したらすぐに預貯金の取引をストップします。なぜなら、お亡くなりになった方の預貯金は、民法では、そのときから相続人の方の相続分に応じた財産になる、と考えられていますが、お亡くなりになった日以降、もし銀行が窓口に訪れてきた相続人の方お一人に対し預貯金の引出に応じてしまった場合、後日遺産相続のトラブルに巻き込まれ可能性があるからです。
お亡くなりになった方の預貯金のお取引がストップすることは、ほとんどの方がご存知のようです。そうしますと、ご遺族の方は、大概、次のように考えるでしょう。「お父さん(お亡くなりになった方)、あと何日もつかなぁ…。お父さんが死んだらお父さんの預貯金がストップしてしまう。そうなると、葬式代などの支払いができなくなってしまう。今のうちに預貯金を引き出しておかないと…」
このような場合、果たしてこのお亡くなりになった直前の預貯金から引出した現金は、お亡くなりになった方の財産として、相続税の申告をしなければならないのでしょうか?
「わざわざ申告しなくても税務署はそこまでわかんないから大丈夫!」「だってもう葬式代とか仏壇・お墓の支払いに充てちゃったからもう手元には残っていないもの!」このようにお考えになる方もいらっしゃるかと思います。
果たして税務署は、そこまではわからないのでしょうか?
税務署側は、ほとんどの方がご存知のように、大概は、お亡くなりになった直前に預貯金の引出しがされる、ということをわかっています。では、預貯金の通帳を破棄してしまえばわからない、とお思いになる方もいるかもしれません。しかし、税務署は、預貯金の通帳がなくても、銀行にお亡くなりになられた方の預貯金の取引照会をかけて、その事実を調査することができるのです。税務署にはこうした調査をする権限を与えられています。
また、直前に口座から引き出した現金は手元に残っていない、という言い訳も成り立ちません。なぜなら、もし、その現金が葬式代や仏壇・お墓の支払いに充てられたのだとしたら、逆にお亡くなりになった日にはその現金は手元に残っていたのではないか、ということになるからです。
お亡くなりになる直前に預貯金を引出した際には、その引出した現金をちゃんと管理して、どのような支払いに充てたのか記録に残しておくのもよいかもしれません。たとえば1週間前に200万円の引出しをしたとすると、その1週間後であるお亡くなりになった日にいくら残っていたか、通常は覚えていません。しかし、その1週間の間に、そのお金を病院の入院費などなんらかの支払いに充てた、ということもあると思います。この場合、支払った金額を覚えていないから必ず200万円全部が相続財産であるとして相続税の申告の修正を求められて相続税を追加納付する、そんなことはあり得ないのですが、税務署から無用な疑いをかけられるのを防ぐことができます。税金の観点からだけではありません。お亡くなりになった日に残っている現金は、相続財産ですので、当然に後日話し合いにより遺産分割されることになるからです。