貸付金(1)
会社を経営されていた方がお亡くなりになった場合には、その会社の株式(以下、非上場の株式会社を前提に話を進めます)が相続財産となります。非上場の会社の株式の相続税における評価額は、会社の規模や業種、評価時点の会社の財産の状況、持ち株割合などに応じ、様々な評価方式によって評価されます。株式の評価上最も基礎となるものは、会社の資産から負債を差引いた純資産です。会社の純資産は、会社を設立する際に株主が払い込んだ資本金と、会社の設立以来累積した利益の蓄積、保有資産を時価評価した場合の含み益からなります。この純資産がプラスであれば、原則として株式の評価額が算出されることになります。
しかし、必ずしもこの純資産がプラスの会社ばかりではありません。過去においては業績が良かったものの、徐々に業況が悪化して毎期の損失が累積して負債が資産を超過した状態(この状態を債務超過といいます)となっている会社もあります。このような会社には、会社の資金繰りに充てるため経営者個人の現預金を会社に入れていたり会社が経営者自身の給料(役員報酬)で支払い切れなかったりしたものが、経営者個人からの借入金として計上されている場合があります。この会社に計上されている経営者個人からの借入金は、経営者個人の方から見れば、会社に対する貸付金というプラスの財産、ということになります。この場合、経営者の方がお持ちの会社の株式は、債務超過であるため、財産評価額はゼロです。つまり会社の純資産がマイナスの状態のため、株式の価値がない、ということです。ちなみに、この会社の純資産のマイナス分が、株式をお持ちの経営者個人のマイナスの財産、つまり債務として相続税において考慮されるでしょうか?答えは、されません。それは、株主は自身が会社に出資した資本金以上に会社の債務に対して責任を負わないからです(会社法第104条ご参照。これを株主有限責任の原則といいます。しかし、合名会社や合資会社の無限責任社員の出資持分は別ですが…)。
一方で、経営者個人の会社に対する貸付金という財産は、相続税の課税の対象となります。債務超過の会社に対する貸付金は回収の見込みがなく財産価値を有さないので、相続税の課税の対象としなくてもよいのではないか、というご意見もあろうかと思います。原則はそうです。相続税の財産の評価規定(財産評価基本通達205(1)へ)においても、債務者が業況不振などの理由で事業を廃止し又は6か月以上休業していることなどにより、貸付金の全部又は一部の回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときは、その回収が不可能な部分は評価しない、とされています。しかし、過去、税務署がなかなかこれを認めてくれず数々の税金裁判が発生しています。そしてその判断は、相続税を納める側にとってとても厳しいものになっています。
経営者個人からの多額な借入金が計上されている会社は、たくさんあると思います。このような状態を漫然と放置しておられませんか?相続税がかかる見込みのありそうな経営者の方は、この点要注意です。