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その他の財産 老人ホームの入居一時金

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その他の財産 老人ホームの入居一時金

高齢化と核家族化が進展する昨今の状況にかんがみますと、高齢者のご夫婦の一方又は両方が終の棲家として老人ホームに入居されるケースがますます多くなってきています。公的な介護保険の適用がある特別養護老人ホームなどの介護保険施設などに入所できるならばそれに越したことはありませんが、現状介護が必要な高齢者の需要に対応し切れていないことから、民間の事業者が運営する有料老人ホームに入居されることを選択されるケースも多いかと思われます。
民間の有料老人ホームに入居する際には、施設の内容に応じまして入居一時金の支払いを求められることがあります。この入居一時金は、(1)居室や共用施設の平均的な使用期間における家賃の前払い、(2)施設の事業者が負担する施設の開業費、開業後の維持修繕などに充てられるもの、(3)ホームでの各種サービスを享受する権利の対価、としての性質を有するものと解されています(国税不服審判所平成18年11月29日裁決)。そして、この入居一時金のうち(1)の家賃の前払い部分は、一定の期間にわたり家賃に充当される(償却される)と同時に、一定の期間内に退去する際には充当された家賃を差し引いた部分が入居者に返還されますが、(2)と(3)の部分は、一種の入会金等としての性質を有するものですから入居開始と同時に事業者のものとなり、入居者に返還されることはありません(同)。
この入居一時金につきまして、たとえば(1)妻の入居に際して夫が入居一時金を負担する場合、(2)夫婦ともに入居する際に夫が入居一時金を負担し、その後夫が亡くなり、妻が引き続き入居している場合、(3)入居している方が亡くなった際に相続人が入居一時金の返還を受けた場合、これらの入居一時金が、それぞれの場面で税金上どのように取り扱われるのか、という問題を、以下見て行きたいと思います。
(1)妻の入居に際して夫が入居一時金を負担する場合
有料老人ホームといいましても、その施設の内容は様々です。なかには、フィットネスルームやヘアエステなどの共用施設を配した豪華なものもあります。
妻が有料老人ホームに入居する際に支払う入居一時金を夫が負担した場合、原則的には夫から妻に対し贈与があったものと考えられます。しかし、夫婦には、互いに扶けあい婚姻費用を分担する義務があります(民法第730条、752条、760条)。これらの義務に基づいて夫婦間で互いに生活費を負担しあったことについて、即贈与があったとして贈与税の課税対象になるかといいますと、そうではありません。相続税法では、扶養義務者相互間における生活費の贈与のうち通常必要であるとみとめられる部分は贈与税を非課税とする、としています(相続税法第21の3第1項第二号)。この夫が負担する妻の入居一時金は、夫から妻に対する生活費の贈与と見ることができなくもありません。
ここに、2つのケースがあります。
①有料老人ホームの入居一時金の総額:945万円(国税不服審判所平成22年11月19日裁決)
このケースでは、夫婦間の生活費の贈与の範囲内であるから贈与税の課税対象(相続開始前3年以内の贈与の場合相続税の課税対象)とはならない、とされました。ただし、このケースでは、家賃の前払い部分の償却期間が5年と短いこと、入居した方は要介護4と重度で必要に迫られて老人ホームへ入居したこと、ホームの施設が華美なものとはいえず入居する方が介護生活を送るための最小限度の施設であったこと、などの事実が考慮されています。
②同一時金の総額:1億3,370万円(同平成23年6月10日裁決)
このケースでは、夫婦間の生活費の贈与であっても贈与税の課税対象(相続開始前3年以内の贈与の場合相続税の課税対象)となる、とされました。このケースでは、居室部分も広く施設内に無料で利用できるフィットネスルームやプールなどの共用部分などがあり比較的豪華な設備であったこと、入居者も介護が必要な状態ではなかったこと、などから通常の生活費の贈与とは認められないと判断されました。
(2)夫婦ともに入居する際に夫が入居一時金を負担し、その後夫が亡くなり、妻が引き続き入居している場合
有料老人ホームには、夫婦が同時に入居することを前提として、夫婦が両者とも亡くなるまで契約が続く形態をとっているところもあるようです。このような契約を締結して、夫が入居一時金を負担し、夫婦ともに老人ホームに入居した後、入居一時金を負担した夫が亡くなった場合、その夫が負担した一時金が、夫の相続税上どのように取り扱われるのか。
ここに国税不服審判所平成18年11月29日裁決のケースがあります。
このケースにおける老人ホームの入居契約は、①入居一時金の額が約7,000万円、②入居中の解約ができ、③解約の際入居一時金の一部の返還が受けられる、という内容です。このような契約のもと、入居一時金を負担した夫が死亡した時点において、解約した場合に妻が受取ることができるであろう返還金相当額が相続財産であるとして相続税の課税対象になる、と判断されました。
(3)入居している方が亡くなった際に相続人が入居一時金の返還を受けた場合
有料老人ホームに入居している方が亡くなり、その相続人が、入居一時金の一部約700万円を受領したケース(国税不服審判所平成25年2月12日裁決)があります。このケースでは、相続人が受領した約700万円の返還金が相続税の課税の対象とされました。
(2)と(3)のケースで、入居一時金の返還金相当額が相続税の課税の対象となることについては、仕方ない面もあろうかと思います。一番注意しなければならないのは、(1)のケースではないか、と思います。たとえば夫婦のうち、妻が介護の必要な状態となり、有料老人ホームへの入居を検討される際にこの入居一時金を夫が負担した場合、その金額が高額か否か、介護の必要性の度合い、老人ホームの設備の内容、などによって贈与税の課税の対象になるとすれば、この贈与税の課税のリスクを回避するには一体どうしたらいいのでしょうか?有料老人ホームの入居一時金に関する一定額を限度とした贈与税の非課税制度の創設や相続時精算課税制度を夫婦間の贈与にも拡充するなど、立法上の手当てが必要なのではないでしょうか?

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